「受注残って何だろう?正しく管理しないとどんな影響がある?」
「受注残が合わないけれど、計算方法ってこれで合ってる?」
このような疑問をお持ちではないでしょうか。
受注残とは、企業が受注した商品やサービスのうち、まだ納品や提供が完了していない分(数量や金額)を指します。
受注残は、適切に管理しないと納期遅延や在庫切れ、キャッシュフロー悪化など深刻な問題につながりかねません。
この記事では、受注残の基本的な概念から、適切な管理が重要な理由、管理手法、便利なツールの活用法まで、体系的に解説します。
最後までお読みいただくと、受注残に関して曖昧だった部分がスッキリと理解でき、業務改善に役立てられるようになります。この機会に、受注残の正しい理解と管理ノウハウを身につけましょう。
1. 受注残とは何か基本的な概念を理解しよう
まずは受注残の基礎知識から、確認していきましょう。以下のポイントを解説します。
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1-1. 受注残:受注残高・受注残数の違い
「受注残」とは、企業が注文を受けたものの、まだ納品に至っていない注文分の数量や金額を指します。
受注残は、金額を表す「受注残高」と、商品や案件の数量を示す「受注残数」の2つの意味で使われます。
文脈によって示す内容が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
それぞれの計算式を以下で確認しましょう。
1-2. 計算式(1)受注残数
まず、“在庫管理” の文脈で「受注残」という語句が使われている場合は、通常「受注残数」を指しています。在庫管理上は、個数ベースで受注と在庫の状況を把握することが重要だからです。
【受注残数の計算式】 受注残数 = 受注数量 - 出荷数量 ・受注数量:受注した商品の総数量 ・出荷数量:受注商品のうち、倉庫から出荷した数量 ※受注残数は、受注したが未出荷の商品数を表します。 |
たとえば、社内の在庫管理システムは、商品ごとに「受注残」の項目が表示されているとします。この項目は、各商品について未納品(未出荷)の注文数がどれだけあるかを示しています。
1-3. 計算式(2)受注残高
一方、“企業の業績指標” として「受注残」が語られる場合は、「受注残高(金額)」を指していることが一般的です。
【受注残高の計算式】 受注残高 = 前期繰越受注残高 + 当期受注高 - 当期売上高 ・前期繰越受注残高:前の会計期間から繰り越された受注残高 ・当期受注高:当期に新たに受注した金額の合計 ・当期売上高:当期に販売して売上計上された金額の合計 ※受注残高は、受注したが未計上の売上の金額、つまり将来の売上見込み額を表します。 |
用法としては、たとえば以下は日経新聞の記事です。
機械・電機56社の受注残6兆円、コロナ後最高に 9月末(日本経済新聞)
あるいは、会社四季報などの経済誌で、今後の増収が期待できる企業として、受注残が注目されていることもあります。
1-4. 受注残とバックオーダー・バックログ
続いて、類義語を整理しておきましょう。
在庫管理の文脈での受注残(数量)は、在庫管理システムによって、
「バックオーダー(back order、B/O)」
「バックログ(back log)」
といった項目名が使われているケースがあります。
【類義語の整理】 ・受注残:企業が受注した商品やサービスのうち、まだ納品や提供が完了していない数量を指します。「注残」と呼ばれることもあります。 ・バックオーダー:在庫不足などにより、すぐに出荷できない注文を指します。受注残の一部として扱われます。 ・バックログ:未処理の作業や注文の蓄積を意味します。ソフトウェア開発などのプロジェクト管理でよく使用される用語ですが、製造業などでは、受注残の意味で使われることがあります。 |
※上記は一般的な意味ですが、各企業によって定義が異なる場合があります。自社での定義を確認しておきましょう。
1-5. 受注残と発注残の関係性
受注残と対義となる用語に「発注残」があります。
受注残と発注残は、販売と購買という企業活動の両輪を表す指標です。両者のバランスを取ることが、円滑な事業運営には欠かせません。
【受注残と発注残の関係性】 ・受注残:顧客からの注文に対する未出荷分を指します。販売側の指標です。 ・発注残:仕入先への発注に対する未入荷分を指します。購買側の指標です。 |
受注残が多いのに発注残が少ないと、納期遅れが発生しやすくなります。逆に、発注残が多いのに受注残が少ないと、余剰在庫を抱えるリスクが高まります。
理想的なバランスは、受注残と発注残が一致している状態です。現実には完全一致は不可能ですが、一致に近づくほど、無駄なく効率的に需給が回っている証拠となります。
2. なぜ受注残が発生するのか?その原因と影響
続いて、受注残が生じる原因や影響といった、仕組みの部分を掘り下げていきましょう。
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2-1. 受注残が発生する原因
受注残が発生する原因としては、需要予測の甘さ、生産能力の不足、納期の長い注文への対応などが挙げられます。
【受注残発生の原因】 ・需要予測の甘さ:予測を上回る注文が入ると、生産能力が追いつかず受注残が発生します。需要予測の精度を高めることが重要です。 ・生産能力の不足:設備や人員が不足していると、注文に対応しきれず受注残が積み上がります。適切な生産能力の確保が必要です。 ・納期の長い注文:受注から納品まで期間が空く注文は、その間ずっと受注残となります。納期管理を徹底し、受注残を適正に保つことが大切です。 ・特注品や個別仕様:標準品と異なり、設計や手配に時間がかかる特注品や個別仕様の注文は、受注残が長期化しやすい特徴があります。 ・仕掛品の滞留:製造に時間を要する製品は、完成までの間、受注残に計上されます。仕掛品を適正な水準に保つ管理が求められます。 |
受注残の発生は、ある程度は避けられません。しかし、適切な対策を講じれば、影響を最小限に抑えられます。
受注残の内容を定期的に分析し、原因を特定して改善につなげていくことが重要です。
2-2. 受注残が企業経営に与える影響
受注残は、企業経営に大きな影響を及ぼす指標のひとつです。受注残の動向から、さまざまな示唆が得られます。
【受注残の企業経営への影響】 ・売上高の予測:受注残は将来の売上予測の重要な基礎データとなります。その推移を観察すると、今後の売上見通しが立てやすくなります。とくに、前期の受注残額は今期の収益確保分であり、増収の目安となります。 ・キャッシュフローへの影響:受注残は資金の流れにも影響します。受注残が多すぎるとキャッシュ不足に陥る恐れがあります。 ・生産計画の立案:受注残は需要予測に直結するため、生産計画の重要な判断材料となります。受注残に基づいて、効率的な生産体制の構築が可能となります。 ・適正在庫の維持:受注残と在庫のバランスを取ることが、適正在庫の維持につながります。受注残に見合った在庫水準の設定が重要です。 ・業績評価の指標:工場や営業所単位での受注残の多寡は、業績評価の指標の1つとして使われることがあります。適切な目標設定が求められます。 |
受注残の変動を定点観測することは、課題の発見や戦略立案に役立つでしょう。
3. 受注残を効果的に管理する具体的な方法
受注残管理の重要性は理解できたものの、具体的にどう進めればよいか悩む企業は多いのではないでしょうか。
ここでは、受注残を効果的に管理するための具体的な方法を5つ紹介します。
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3-1. 受注残の可視化と優先順位づけ
1つめのポイントは「受注残の可視化と優先順位づけ」です。
受注残を適切に管理するためには、可視化が欠かせません。そのうえで、優先順位を付けて対応することが大切です。
【受注残の可視化と優先順位づけの方法】 ・受注データの一元管理:受注情報を一箇所に集約し、リアルタイムで受注残が把握できる仕組みを整えましょう。システム導入が必要ですが、難しい場合、表計算ソフトの活用も有効です。 ・受注残一覧表の確認:受注日・納期・顧客名・商品名・数量など、受注残の基本情報を一覧で確認します。日次や週次で更新するのがよいでしょう。 ・納期順のソート:納期が早い順に受注残をソートし、対応の優先順位が明確にします。納期遅れのリスクを減らすことにつながります。 ・顧客ランク別の区分:重要顧客の注文は、区別して特別管理します。それ以外の注文より優先的に対応し、大口顧客の満足度を高めます。 ・受注残の経過日数管理:受注日からの経過日数も重要な管理ポイントです。滞留期間が長い受注残は、優先的に解消を図る必要があります。 |
情報の「見える化」と効果的な対応の仕組み作りに注力することが、適切な受注残管理の第一歩となります。
3-2. リードタイムを考慮した生産計画の立案
2つめのポイントは「リードタイムを考慮した生産計画の立案」です。
受注残を適切に管理するためには、受注から納品までの全体工程を俯瞰しつつ、リードタイム(受注から納品までの所要時間)を考慮した計画を立てる必要があります。
【リードタイムを考慮した生産計画の立案ポイント】 ・受注残の納期分析:納期の分布状況を分析し、ピーク時期や平準化すべき時期を割り出します。これをもとに、生産計画の骨格を組み立てます。 ・部品の発注リードタイム考慮:製品を構成する部品のなかで、発注リードタイムが長いものを把握しておきます。部品の到着日を逆算して、製造開始日を決めましょう。 ・製造工程のボトルネック(妨げとなる箇所)の分析:工程のなかで、とくに時間のかかる作業や人手を要する作業を見極めます。その工程にあわせて、生産スケジュールを立てるのがコツです。 ・外注先のキャパシティ(生産能力)確認:自社工場だけでは対応しきれない場合、外注先の製造キャパシティを考慮に入れることが必要です。無理のない外注発注計画を心掛けます。 ・バッファ(余裕)時間の設定:予期せぬトラブルに備え、生産工程にバッファ時間を設けます。全体のリードタイムを圧縮しつつも、余裕を持った計画にしておきます。 |
リードタイムを考慮した生産計画は、トータルの受注残管理に直結します。受注残の状況を常に意識しながら、臨機応変に計画を修正していく柔軟性も大切です。
生産計画の精度が、受注残管理の成否を左右するといっても過言ではないでしょう。
なお、上記は生産部門を持つ企業が前提となっていますが、購買・調達の場合も、基本は同じです。リードタイムを加味して、調達計画を立てます。
3-3. 在庫管理との連携による最適化
3つめのポイントは「在庫管理との連携による最適化」です。
受注残管理と在庫管理は、表裏一体の関係にあり、適切な連携が欠かせません。
【在庫管理との連携による受注残最適化のポイント】 ・受注残と在庫の同期管理:受注残と在庫情報を同じデータベースで一元管理します。リアルタイムに両者の数字を同期させることが理想です。 ・受注残の引当管理:受注残に対して、引き当てられる在庫を明確にしておきます。受注残を出荷予定在庫に紐づけ管理するのがポイントです。 ・安全在庫の設定:欠品を防ぐために、安全在庫(必要在庫に加えて最低限確保しておく在庫)を設定します。安全在庫は受注残から差し引いて管理しましょう。 ・在庫の回転率管理:在庫の入荷日と出荷予定日を適切に管理します。需要予測と突き合わせ、最適な在庫数を保つよう調整します。滞留在庫を減らして在庫回転率を高め、キャッシュフローの改善を目指します。 |
このように、受注残管理と在庫管理の連携を密にして、適正化を図りましょう。
3-4. 営業と生産・調達の情報共有と連携強化
4つめのポイントは「営業と生産・調達の情報共有と連携強化」です。
受注残管理を適切に進めるには、営業と生産部門や調達部門との協力体制も重要な要素です。情報を共有し合って、常にベクトルを一致させなければなりません。
【情報共有・連携強化のポイント】 ・定例会議の開催:関係者が定期的に集まり、受注残の状況や課題を共有します。コミュニケーションを通じて互いの立場を理解し、助け合える関係性が連携の礎となります。 ・受注データの一元化:営業部門の持つ受注情報と、生産部門や調達部門の進捗情報を同じデータベースで管理します。情報の食い違いを防ぎ、意思疎通を円滑化します。 ・現場目線の情報共有:トップダウンの指示だけでなく、現場レベルでの日常的な情報交換を活発化させます。些細に思える共有が、大きな改善につながります。 ・受注残の予実管理:営業側の受注残予測と、生産・調達側の実績進捗を突き合わせます。ギャップの原因を分析し、対策をともに考えるのが理想的です。 |
このように、組織が一体となって受注残管理に取り組めば、納期遵守率の向上やコスト削減など、さまざまな効果が期待できます。
3-5. 受注残の定期的なモニタリングと分析
5つめのポイントは「受注残の定期的なモニタリングと分析」です。
現状を定期的に観測し、問題点を特定して改善策を講じることが、効果的な受注残管理の鍵となります。
【受注残の定期的モニタリング・分析の着眼点】 ・受注残の月次推移分析:毎月の受注残高の増減を時系列でグラフ化し、変動要因を詳細に分析します。季節性や市場トレンドを把握し、需要予測の精度向上に活用します。 ・顧客別の受注残分析:主要顧客ごとの受注残高の推移を追跡し、顧客別の需要動向を把握します。顧客ごとの販売戦略の妥当性を検証し、最適な顧客ポートフォリオ(顧客の組み合わせや構成)の構築に役立てます。 ・製品別の受注残分析:製品カテゴリーごとに受注残の内訳を精査し、製品別の需要動向を分析します。新製品の投入タイミングや既存製品の改廃判断の根拠として活用します。 ・受注残の滞留分析:受注日から納期までの日数を詳細に分析し、滞留期間の長い受注残を特定します。滞留要因を究明し、受注処理プロセスの改善点を洗い出します。 ・KPI管理との連動:受注残に関する重要業績評価指標(KPI)を設定し、定期的にモニタリングします。全社の経営指標との関連性を分析し、経営課題の早期発見につなげます。 |
受注残のモニタリングと分析を通じて得られた知見は、業務プロセスの改善やマネジメント判断に活かしていくことが重要です。
以上5つのポイントを解説しました。
続いて以下では、受注残管理の具体的なツールについて、ご紹介します。
4. 受注残管理を効率化する便利なツールの活用法
受注残管理の重要性はわかっていても、人的リソースが限られるなかで、いかに効率的に進めるかは悩ましい課題です。
そこで活用したいのが、ITツールの力です。便利なツールを使いこなし、効率化を図りましょう。ポイントを解説します。
4-1. クラウドサービスを活用した情報共有
受注残管理において、関係者間のリアルタイムな情報共有は非常に重要です。
クラウドサービスを活用すれば、場所を問わず最新の受注残情報にアクセスでき、コスト削減とデータ保護というメリットも享受できます。
【クラウドサービスの受注残管理への活用メリット】 ・リアルタイムの受注残把握:クラウド上のデータ一元管理により、最新の受注残情報を関係者全員が確認できます。情報の鮮度と意思決定の速度が向上します。 ・場所を問わないアクセス:インターネット環境があれば、オフィスだけでなく営業先・出張先や在宅からも受注残情報にアクセスできます。 ・コスト削減とデータ保護:クラウドにデータを保存することでPCトラブルによるデータ消失のリスクを回避できます。サーバー管理のコスト削減も期待できます。 |
近年、さまざまなクラウドサービスが登場しています。
たとえば、カタログ制作にリソースを割く必要のある商社やメーカーには、カタログ制作データを二次活用するクラウドツールが非常におすすめです。
以下は、BtoBの煩雑化しがちな受注業務の改善に効果的なツール「WONDERCART」の仕組みです。
カタログ制作データを起点として構築されたデータベースは、営業部門から調達部門まで、社内の各部門で正確な情報を共有するために役立ちます。さらに、それぞれの業務に適した形式でデータを活用できるため、業務効率化に効果的です。
4-2. ERPシステムとの連携による自動化
もうひとつ、システム連携の有力な選択肢となるのが、「ERP」です。
ERP(Enterprise Resource Planning:総合基幹業務システム)は、企業の基幹業務を統合的に管理するソフトウェアパッケージです。
【ERPシステム連携のメリット】 ・受注データの自動連携:受注情報のERP登録により、販売管理や生産管理、在庫管理、会計処理などの関連データが自動的に生成・更新され、業務の正確性と効率性が大幅に向上します。 ・売上計上と原価管理の自動化:出荷や仕入れの実績データのERP連携により、請求書発行や売上計上、原価の把握などを自動化できます。 ・経営状況の可視化:受注残や売上高、原価などの情報を横断的に分析し、多角的な視点から経営状況を可視化します。課題の早期発見と意思決定の精度向上が実現します。 |
ERPとの連携は、全社レベルでのデータ活用を促進し、業務プロセスの効率化と経営管理の高度化に寄与します。
【代表的な製品例】 ・SAP S/4HANA:世界中で広く使用されているERPシステムで、受注管理、生産管理、在庫管理、財務、人事など、広範な業務を統合的に管理でき、高い拡張性があります。 ・Oracle NetSuite:中小企業から大企業まで幅広く導入されています。生産管理、在庫管理、販売管理、財務会計など、幅広い業務に対応可能です。 ・Microsoft Dynamics 365:モジュール単位での導入が可能で、必要な機能だけを選択できます。受注管理、生産管理、在庫管理、販売管理、財務会計など、幅広い業務に対応できます。 |
注意点としては、導入には十分な準備と投資が必要であり、自社の成長ステージを見極めて計画的に進める必要があります。システム部門や信頼できるベンダーと相談しながら、検討していきましょう。
5. まとめ
本記事では「受注残」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
まず受注残の基礎知識として、以下を解説しました。
・受注残とは、受注したが納品に至っていない注文分の数量や金額を指す ・受注残高は金額を表し、受注残数は数量を表す ・受注残は、バックオーダーやバックログとも呼ばれる ・受注残と発注残は販売と購買の両輪であり、バランスが重要 |
受注残が発生する原因や影響について、以下のポイントを解説しました。
・受注残の発生原因は需要予測の甘さ・生産能力不足・納期の長い注文への対応などがある ・放置すると納期遅延・機会損失・キャッシュフロー悪化などの影響が生じる ・受注残は将来の売上予測や生産計画、適正在庫の維持に影響する ・受注残の変動を観察し、最適な受注残レベルを見極めることが重要 |
受注残を効果的に管理する具体的な方法として、以下の5つを解説しました。
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受注残管理を効率化するツール活用法として、以下をご紹介しました。
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受注残とは何かを理解し、適切に管理することは、健全な企業経営の実現につながります。あらためて自社の受注残について振り返り、改善の一助としていただければ幸いです。
#受注残
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